FMの仕事とは

ファシリティマネジメントの領域はとても広く、その対象も拡大しており、認定ファシリティマネジャーが所属している企業や団体の業種や事業、担当業務も多岐にわたります。ファシリティマネジメントを担当業務としておられる皆様に、お仕事やFMへの思いを語っていただきました。
ファシリティマネジメントの仕事とは何か?様々な視点からのFMの多様性や奥深さを感じていただき、皆さんの業務に是非ご活用ください。

■■ファシリティマネジメントの資格〜「認定ファシリティマネジャー資格」■■
FMに携わるすべての方を対象に必要な専門知識・能力について試験を行い、合格者は登録することで「認定ファシリティマネジャー資格」を取得できます。FM関連知識を勉強するにはよい機会となります。
受験については以下のページでもご案内しておりますので、参考にご覧ください。
認定ファシリティマネジャー(CFMJ) 資格 試験案内

ファシリティマネジャーの仕事について 〜皆様からの声

※ 以下の内容は、JFMA機関誌「JFMAジャーナル NO.216 2024 AUTUMN」に掲載されている内容から引用しております。JFMAジャーナルは、JFMA会員の皆様に無料で配布しているほか、書籍ページ からもご購入できます。


篠ア 蓉子
株式会社パスコ
公共マネジメントの仕事
 はじめまして。株式会社パスコで公共施設マネジメント業務に従事している篠アと申します。
 株式会社パスコは、地球上のあらゆる事象を捉え、AI(人工知能)やIoT、GIS(地理情報システム)、画像処理などを活用した「分析・解析技術」を加えた3 つの要素を融合することで、国土や環境の管理・保全、インフラの維持管理、災害その他のリスク管理や対策など、社会課題の解決に向けたサービスを提供しています。
 このなかで私が所属しているファシリティマネジメント課では、北は北海道から南は沖縄までの地方自治体を主な顧客として、公共施設を総合的かつ統括的に管理・運営・活用を行う公共施設マネジメントに関連する業務支援を行っています。
 私自身は、育児休暇をいただきつつ、10 年程携わってきました。(子育て中の同志の皆様、読んでくださっている方いらっしゃいますでしょうか。お互いがんばりましょうね!)
 部門として対応している業務は顧客の課題の数だけ幅広くあるのですが、特にデータの整理・分析に興味があることもあり、弊社提供サービスである公共施設マネジメントシステムの運用・保守業務や、利用状況・コスト情報の分析・推計、GIS を用いた分析などの業務を主に対応させていただいています。お客様や市民の方々からみても客観的で分かりやすい成果をご提供すべく、日々頭を捻って試行錯誤を繰り返しています。
 当たり前のことではありますが、業務に関わり始めた当初は、自身で対応できることの範囲が狭く、戸惑うことも多々ありましたが、少しずつ業務経験を積み、自治体のお困りごとに対して、どういった対応・解決方法が望ましいのか、お客様や課員の方々とのコミュニケーションを楽しみながら業務にあたることができるようになってきました。
 認定ファシリティマネジャーの資格は、関連業務に従事する際に資格要件として指定されていることも多く、関連部門の社員は受験を推奨されていたこともあり、資格取得に至りました。当時は、今よりもまだまだ半人前だったこともあり、知らないことだらけで、改めてファシリティマネジメントの幅の広さを実感しました。試験を受験する際に網羅的に学んだことによって、私が関わる業務がファシリティマネジメントとしてどのような位置づけなのか俯瞰的に捉えることができ、さまざまな気づきを得ることができています。
 資格を取得したことで、携わることのできる業務の幅も徐々に広がり、新しい技術・知識を吸収することの大切さを感じています。業務や育児の忙しさにかまけて忘れがちになってしまいますが、知識のアップデートを怠らないように、学びを深めながら、お客様に仕事を任せてよかったと思ってもらえるような技術者になれるように、引き続き日々精進していく所存です。

嶋村 浩樹
東京美装ホールディングス株式会社
たまたま取った資格が役立つときが来た
 筆者が認定ファシリティマネジャーの資格を取得したきっかけは、実はあまり褒められたものではない。積極的に取得したわけではなく、大学の恩師がJFMAに関わっていたこともあり、恩師の顔を立てる程度の軽い気持ちで「とりあえず取っておこう」くらいのものだった。資格取得は2011 年であるが、当時は建築設計事務所の意匠担当(建築設計部)だったこともあり、ファシリティマネジャーの知識や資格は全くといって良いほど使ったことがなかった。ところが、事務所内で資格を持っているという理由で、公共施設プロポーザルのファシリティマネジメント資格所有者としてチームに参加するようになった。ちなみにその当時、事務所員は500 人前後だったが、認定ファシリティマネジャー資格者は5〜10人程度だったと記憶している。そのあたりから同種業務を経験していくうちに徐々に実績が増えると、自ずとスキルも増し経験値も上がってくる。社会全体がスクラップ&ビルドからストックマネジメントの時代に移るにつれて民間企業からのニーズも増え、次第に事務所内の各部署や支社からファシリティマネジメントに関する相談を受けることになっていった。
 かくして筆者のファシリティマネジメントに関する知識やノウハウは、たまたま資格を取ったことから始まったものであるが、今ではこの偶然に感謝している。筆者がエンジニアとして提供する直接的な成果物は、建築の施設や設備に関わる管理と保全のノウハウであるが、同時にコンサルタントとして提供する間接的な効果としては、適切な維持管理と運営のその先にある「経営資源の最適化」ということになる。建物がハードとしての「器」であると同時に、経営資源という「資産」でもあることを強く意識するようになったのは、まさに認定ファシリティマネジャー資格を取得したおかげだと言って良い。
 現在、筆者は維持管理会社に籍を置いているが、同業界は生き残りをかけた非常に厳しい時代を迎えている。少子高齢化による人手不足、人件費の高騰、地方都市の衰退など、今まで収益の柱としてきたビジネスモデルが崩壊し、そのエリアも確実に縮小してきている。さらに維持管理業に全く関係のない他業種からの新規参入も近い将来起こると考えている。人間に変わってロボットが清掃や警備をするようになれば、人材派遣のネットワークやノウハウがなくても、機器メーカーが直接業務を請負うこともできる。また、今まで処理不可能だった設備管理や清掃に関する膨大なデータをAI で分析できるようになれば、IT 系企業が業務を受注することもあるだろう。これからは維持管理に関する情報を管理/ 分析できる企業が主導権を握る時代がやがて来る。維持管理に関する情報を扱えるのは、何も専門知識を持った企業や人たちだけのものではなくなる。「維持管理業」自体は将来もなくならないだろう。しかし「維持管理を専業とする会社」はいずれ淘汰され、なくなる可能性が十分にある。
 このような状況下でファシリティマネジャーは、その知識を使って企業が生き残るための計画を立ててはどうだろうか。たとえば、維持管理会社は過去業務の膨大な生データを持っている。パートさんやアルバイトさんの属性や勤務時間、シフトスケジュール、重大インシデントの発生状況、ケガや事故の起こりやすい場所や季節/ 時間など、いわゆる「お宝」情報を管理/分析できると大幅な業務改善が可能になる。さらには設備機器の更新/ 修繕周期と機能不全、故障リスクとの相関関係、そのデータとリンクした最適な保全計画、設備機器台帳(ハード)と財産台帳(アセット)の統合ができると、経営の効率化が可能になる、といった提案ができるはずである。そうなれば、維持管理業務におけるファシリティマネジャーの役割は、今後ますます重要になるのではないかと思っている。

橋 淳
東北電力株式会社
その最適解を求めて
ここに来るまでの道のり
  私は電力会社の建築部門で自社保有の遊休施設利活用や社内のワークプレイス改善を担当しています。建築部門では発電所や社員が働く事業所、社宅などの設計・工事監理や維持保全を主な業務としていますが、弊社では建築社員がその専門知識を活かして、他部門と連携しながら遊休施設利活用やワークプレイス改善にも取り組んでいます。
  実は私自身、現在の会社は3社目で2023 年に中途で入社しました。1社目は建設会社で建築の施工管理を6 年、2社目は鉄道会社で駅舎などの企画・設計・工事監理を11 年、そのほとんどが建物を“ つくる” 仕事でした。鉄道会社にいた頃、新しい駅ができて地域の皆さんに喜ばれる一方で、その周辺の商店街では日中なのにシャッターが閉まり、人の姿もないという光景を各所で目にしていました。これがきっかけとなり、使われなくなった建物を“ つかう” 仕事をしてみたいと、いつしか思うようになりました。
  「地域課題の解決に向けた遊休施設の有効活用であなたの経験・スキルを活かしてみませんか?」。電気料金のポイントアプリを調べるつもりで開いた東北電力のHP で偶然キャリア採用の募集を見た瞬間、「これだ!」と思い転職することを決めたのでした。
認定ファシリティマネジャーの取得
  転職することが決まり、会社から成果を求められる立場になったことで、いい意味でのプレッシャーが生まれました。入社を機にさらなるスキルアップを考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが、募集要項の歓迎する資格にあった「ファシリティマネジャー」の取得でした。資格を詳しく調べたところ、利活用をはじめ、ファシリティの機能を最大限引き出すための幅広い知識を得られることが分かり、その必要性を感じて取得することにしました。
ファシリティマネジメント(FM)の仕事
  遊休施設利活用の対象は主に社宅や事業所の空きスペースになります。検討に進む前には” 活用しても社内の施設供給に支障はない(不足は生じない)” といった経営視点の判断が必要になります。これを実務に落とし込むと、まずは社内でスペース利用のニーズはないかを確認し、なければ地元の自治体や企業にお声がけをして幅広にニーズ調査を行い、活用策を検討していくことになります。これまでに私が担当した案件では、社内ニーズで事業所の空きスペースに近隣のグループ会社が移転し、スペースの狭隘や設備環境の改善につながった事例や、社宅アパートを地元企業の宿舎として活用し,地域課題の解決につながった事例などがあります。活用策の案出しは自由な発想が求められる一方で、それを実現するためには事業計画の策定、用途変更に伴う行政手続き、設計・工事、賃貸借契約、維持保全など現実を見て考えることがたくさんあります。いろいろと難しさはありますが,自分のこれまでの経験やFM・建築の知識を総力して利用者や現地の社員と一つひとつ形にしていくプロセスは楽しく,思い描いていた仕事がやれていると実感しています。
  また、今年からは社内のワークプレイス改善も担当しています。弊社では、昨今の働き方の多様化、仕事を行うツールの変化、世の中の仕組みに応じた業務内容の変化などから、ワークプレイスのあり方を見直す事例が増えています。仕事の性質が異なる各部門からの要望(仕事のしやすさ)を基本コンセプトのレイアウトにどう落とし込んでいくか、試行錯誤しながらも「ここで働きたい」と思えるようなワークプレイスを利用者と一緒につくりあげることを目指して取り組んでいるところです。
最後に
  遊休施設利活用・ワークプレイスとも、その正解は一つではありません。利用者と何度も会って話し、推進チームで意見を出し合い、そうやって関係者みんなで『最適解』を作っていくものだと思っています。私が今の道を選んだときのように、今度はFM を通じてみんなと「これだ!」と思える瞬間を共有しながら,ファシリティが持つ機能を最大限引き出していきたいと考えています。

竹林 佑記
株式会社いよぎんホールディングス
本社建替えプロジェクトを機に資格を取得。
FMは、事業会社の担当者に必須の知識

  私が勤務する「いよぎんホールディングス」は愛媛県松山市に本社を置く企業グループで、その傘下に、伊予銀行をはじめとするグループ11 社を有し、地域経済・産業の持続的な発展に貢献すべく事業展開しております。
  弊社の本社建物は1952年の竣工後70年以上が経過し、老朽化しておりましたので、2022年8月に本社建替を決定し、以後、私は本社建替PT(プロジェクトチーム)として、各種プロジェクトの企画・推進を担っております。
  認定FMの資格取得の理由ですが、現部署に着任するまでは営業店経験しかなく、建築の「け」の字も分からない素人でしたが、急遽、本社建替プロジェクト(PJ)に携わることになりました。今でも覚えていますが、設計・施工をご担当いただいている竹中工務店との会議に初めて出席した際に「ワークプレイス?エンジニアリングレポート?中性化診断?…全く意味が分からん…」と思ったことが、FMの勉強を始めた直接的な動機でした。当初はピュアにFM に関する知識取得が目的で、資格取得まで考えておりませんでしたが、PJを進める中でお会いした方の名刺に「認定ファシリティマネジャー」の記載があり、私自身も取得すれば、関係者の方との共通の話題ができるのでは?と思い、資格取得を目指した次第です。
  FM資格・知識の仕事への活かし方について、職務柄「資格」は必須ではありませんので直接的には関係ないものの、建物や什器類などのハード面については社内の各人が一家言を持っておりますので種々さまざまなご意見を頂戴することが多く、そのような時に「世の中にはファシリティマネジメントという概念があり、私はその勉強をして資格も取っているのですが…」という枕詞を付けて説明いたしますと、存外にご理解・ご協力をいただけましたので、そういう意味では役に立ったかと思っております。
  FMの「知識」に関しては、竹中工務店はじめ各直営事業者と協議する時だけでなく、社内向け資料作成や説明を行う際にも大いに役立ちました。当然、FMの知識は、社外の皆様の専門領域とは異なりますので、詳細についてはプロにお任せすることになりますが、建物をどういうコンセプトで建てるか、働きやすい環境をどうつくるか、どういうスケジュールでPJを進めるか等々、まさにFMの知識があることで関係者の皆様と「共通言語」で話をすることができたという意味では、事業会社の建築・管財等に携わる担当者としては必須の知識だと理解しております。
  また、社内向けの話ですと、PJを進める中で、コロナ禍や物価上昇などの社会情勢が変わりますので、それに伴い、新本社に関する議論も変化しますが(リモートワーク普及による床面積不要論や予算対比でのコストダウン検討など)、その都度「われわれは新本社に何を求め、完成後には何を実現したいのか?」という目的を明確にすることができたのは、FMの体系的な知識があったからではないかと考えております。
  弊社の本社建替PJは現在地で2棟建替えを行うため2022年〜2029年の長丁場となり、足元の進捗率としては20〜30%といった状況ですが、2025年春には1 棟目が完成しますので、今まで企画してきたことを実際に実現・定着させるフェーズに入ります。想定通りに実現できることもあれば、一方で、上手く定着できないものや想定外の事象も発生するだろうと覚悟はしておりますが、その都度、FMの学習を通じて得た知識を活用して、新本社の運用をチューニングしつつ、2棟目の設計・施工計画を関係者の皆様とともにさらに磨き上げ、従業員全員に満足して貰えるような新本社をつくり上げたいと考えております。
 

これまでに掲載したファシリティマネジャーの声


■ FMの知識で実現する日建設計のフロア整備と運営改革

 板谷 萌絵(株式会社日建設計)
 日建設計では、建築や都市計画の設計業務に加え、プロジェクトマネジメント(PM)、デザインコンサルティング、ファシリティマネジメント(FM)、コーポレートリアルエステート(CRE)にも積極的に取り組んでいます。私は建築意匠を専攻していましたが、入社後はFMやPM、さらには建物の投資運用や管理運営といった分野にも携わることとなり、認定ファシリティマネジャーの資格を取得しました。資格取得を通じて、施設投資評価手法など、学生時代には触れる機会のなかった知識を学び、建築が多岐にわたる広範な分野であることを実感しました。
 弊社では、オフィス空間の活用が重要なトピックの一つとなっており、昨年には大阪オフィス改修プロジェクトが第18回日本FM大賞を受賞し、東京本社には共創空間「PYNT」が誕生しました。しかし、グループ会社の統合に伴うフロア整備や職員増加への対応、エリアごとにばらつきのあるオフィス環境の改善が緊急課題となっています。
 私は東京地区で、FMやPM、オーナーズコンサルティングの視点から、資格取得時に学んだ公式ガイド『ファシリティマネジメント』に基づき、社内の経営戦略室のワークプレイス基本方針の策定を補助しました。また、FMの中長期実行計画提案や要求条件の整理、プロジェクトの進行管理、評価、改善のプロセスも担当し、九段下、飯田橋、竹橋に分散するオフィスフロアの統合と配置を決定するローリング計画やスタッキングの検討を行いました。
 ワークプレイス基本方針の策定に際しては、「共創の場」「働きやすい環境」「カーボンニュートラル」「オフィス運用システム」などの項目ごとにビジョンや条件を整備し、各オフィスの個々の与条件(1人当たりの執務面積、キャビネット数、フリーアドレス席、省エネ目標値、会議予約システムなど)を設定しました。
 また、FMの中長期実行計画やローリングとスタッキングの基本計画では、社員用Wi-Fiに接続されている端末数を基にフロアごとの混雑度を計測し、公平にフロアプランを評価して改善すべきエリアを特定しました。さらに、今後の職員増加を見越して、快適なオフィス環境を維持するために、収容可能人数を超えるタイミングを予測し、中長期実行計画の提案を行いました。スタッキングの際には、デザイン会議に必要な大きな会議テーブルや、個人作業に適した執務席の確保など、部門ごとの特有のニーズを考慮し、社員のワークパフォーマンス向上に寄与する配置を検討しました。
 オフィス改修プロジェクトの進行管理では、統合された部門のフロア改修や執務席増強のためのレイアウト変更、社内禁煙化に伴う元喫煙所の図書ライブラリーへの改修も担当しました。
 弊社はFMやPM、設計、インテリア部門を自社内に擁し、工事以外はほぼインハウスでメンバーを調達しています。そのため、業務上の立場や社内の連絡・承認体制が複雑化し、苦労もありました。しかし、自社のオフィスを対象としたFM事例に関わることで、ファシリティの現状や改修後の結果を肌で感じ取ることができ、大変学びの多いプロジェクトとなりました。

■ 市役所職員ファシリティマネジャーとしての実践

 神村 賢一(市原市役所都市部)
 私は、1999年から建築技術職員として市原市役所に勤務して26年目。これまでに都市計画、建築指導、中心市街地活性化、建築営繕、市庁舎整備・管理等の業務を経て、現在は建築指導部門で民間住宅等の耐震化促進業務に携わっています。
 私のファシリティマネジメント(FM)との出会いは、2010年、建築営繕部門に配属された頃に遡ります。当時、他自治体の先進的なFMの取り組みを視察して衝撃を受けた上司から、「公共施設の整備と保全を一体的に捉え、施設管理部門に横串を刺して市全体として最適化を図るFMは、今後絶対に必要となるので研究しなさい」と指示を受けたことを機にFMの勉強を開始。勉強する過程で認定ファシリティマネジャー資格を知り、2011年に受験し、資格を取得しました。
 資格取得後、FMの知識や資格を実践的に実務に活かせたのは、2017年度から2022年度まで配属されていた総務部門で携わった市庁舎整備・管理業務です。
 市原市の市庁舎のうち、庁舎としての中心的な機能を担う本庁舎は、1972年築で耐震性能の不足と老朽化が問題となっていたことから、2011年の東日本大震災を機に防災拠点機能のできるだけ早期の強化・確保に向け耐震対策が検討され、喫緊の対策として災害対応機能を中心に本庁舎の約半分の機能を担う免震構造の防災庁舎(現第1庁舎)を市役所敷地内に新築し、既存の本庁舎は高層階を不使用にして低層階に限り第2庁舎として当面の間使用継続することとなりました。
 私が総務部門に配属になった2017年度は、第1庁舎の整備の最終年度であり、私の最初の仕事は、第1庁舎整備の仕上げと供用開始に向けた移転(引越)でした。特に多角的に品質を十分精査しての備品導入や、ユニバーサルデザインを意識した案内サインの整備、引越業者のノウハウを最大限活かし三連休3日間で一気に行った移転(引越)については、まさにFMの実践でした。
 その後、2018年度には第2庁舎の機能を低層階に集約させる移転(引越)を行うとともに、第2庁舎の「当面の利用」後の抜本的な耐震対策(庁舎強靭化対策)の検討をスタートしました。
 庁舎強靭化対策については、まず2018年度から2カ年で第2庁舎の抜本的な耐震対策を「耐震改修」と「建替え」のどちらの方向性で進めるかの検討を行い、イニシャルコストと長期的なランニングコストを踏まえたトータルコストや庁舎としての使い勝手を比較検証した結果、「建替え」の方向性で進めることとなりました。
 そして2020年度から2カ年で第2庁舎の建替えとなる新庁舎整備の基本計画の策定、2021年から2カ年で基本設計を行ったところです。
 これら庁舎強靭化対策の検討は、委託業務として民間企業の支援を得て行いましたが、委託仕様において業務体制に認定ファシリティマネジャーの参画を求め、委託先の民間ファシリティマネジャーとの対話により、FM面からの内容を深めることができました。特に基本計画については、検討期間が新型コロナウイルスの蔓延した時期と重なったことから、アフターコロナの新たな働き方に対応したワークプレイスづくりとして新たな知見を盛り込むことができました。
 また前段までのプロジェクト管理的な庁舎整備の業務と並行して、庁舎の運営維持にも携わってきましたが、特に老朽化による問題が顕在化している第2庁舎の維持管理については、設備等の突発的な不具合や台風等の災害での各部破損との戦いでした。以前から維持管理のための基本的なPDCAサイクルはある程度確立されていましたが、庁舎での業務継続を死守すべくOODAループによる臨機応変な課題対応を求められることが日常茶飯事で、運営維持については本当に鍛えられたなと自負しています。
 以上紹介してきた取り組みは厳しい条件の下で苦しいことが多かったものの、常に夢を持って前向きに明るく楽しく臨んできました。市役所にはこの他にも多様なFMの業務があります。今後も配属される部門によりFMの知識を活かす業務は変わってきますが、さらにポジティブに学びながら取り組んでいきたいと思います。

■ 働きたくなる会社をつくる

 熊谷 隆之(パナソニックコネクト株式会社)
 パナソニックコネクトはBtoB のお客様に向けて、お客様のビジネスの現場にソリューションで貢献するパナソニックグループの事業会社です。
 当社は2017 年に社外から着任した経営者、樋口泰行のリードで企業改革に取り組み、第一歩としてカルチャー改革を重視して大規模なオフィス改革を行いました。
 当時私は経営企画の立場でプロジェクトに参画し、本社部門を大阪から東京へ移転、島型オフィスをフリーアドレスに一新、役員個室を廃止して社長もオープンスペースに出てきてもらいました。上意下達をやめオープンでスピーディ、フェアなカルチャーを目指したのです。
 職場環境や運用を変えるだけで、会社が大きく変わり、自分自身も会社が楽しくなりました。ファシリティの力を実感する貴重な原体験だったと思います。この取り組みでパナソニックグループとして2018 年JFMA賞奨励賞をいただくこともできました。
 その後、私は縁あってオフィス改革の主幹部署だった総務部に異動になりました。本社・開発拠点・工場など日本の主要9 拠点など国内事業場の運営を行う総務部、その業務改革担当として今から3 年前に着任しました。
 総務は初めての経験で知らない業務ばかり、また以前は拠点ごとに別会社だった経緯もあって同じ業務でも拠点ごとにやり方がバラバラの個別最適の運営で、業務の全体像も見えない状態でした。どこから手をつければいいものか途方に暮れておりました。
 試行錯誤を続ける中、コンサルタントのクレイグカックス氏からJFMA や認定ファシリティマネジャーを紹介され、『公式ガイド ファシリティマネジメント』を手にしました。読み始めると第一章から驚きの連続でした。
 施設や職場環境の価値を高めて、事業の成長や従業員の成功・エンゲージメントの向上につなげられること、戦略的にPDCA サイクルをまわして費用の効率活用することで大きく経営貢献ができることなど、FM の概念とその重要性・ポテンシャルがよく理解できました。業界の地図や羅針盤を手に入れたような感覚で、悩んでいた方向性を見出せて、大いにモチベーションが高まったのを覚えています。共に改革を担当する同僚と励まし合いながら学習を続け、資格も取得できました。
 その後はFM の知見を得て、拠点バラバラの個別最適を全体最適へ向けて見直す改革に取り組んでいます。
 施設管理、ワークプレイスなど機能(ファンクション)ごとに、日本全拠点の横串を刺したプロジェクトチーム「ファンクションチーム」を発足。拠点メンバーの協力を得ながら各ファンクションのあるべき姿を議論して、運営基準の策定、業務プロセスの標準化を進め、業務集約による効率運営を目指して活動を続けています。
 予算の管理も拠点ごとにバラバラでしたが、公式ガイドのファシリティコスト管理体系にのっとって費用管理ができるように仕組みを整えていきました。
 将来はFM 部門としてPDCA をまわせる体制を確立させて、拠点別運営からファンクション別の組織運営への切り替えを目論んでいます。
 またJFMA のセミナーにもたいへんお世話になりました。昨年11 月の初級FM スクールへ部内で参加を募ると、4 割の二十数名が手を挙げて受講、FM の理解を深めてくれました。総務部の認定ファシリティマネジャーは現在5 名、今年も数名挑戦しています。FM のフレームワークを理解し実践できる人を増やして強い組織にしていきたいと考えています。
 2 年前に総務部では「働きたくなる会社をつくる」というミッションを全員で決めました。FM は会社の活気を生み出し、従業員を幸せにできるとても重要でやりがいのある仕事です。業界の知見を活かしてFMを進化させていくことで、ミッションを実現させていきたいと思います。

■ サステナブルな社会の実現に寄与できる
  ファシリティマネジャーをめざして
 板谷 萌絵(株式会社日建設計)
入社からの経歴
 私が当社に入社した理由は、社名の通り、建物の構築から維持までファシリティに幅広く関わる立場、いわゆるファシリティマネジャーになりたいと思ったからである。
 実際に、入社当初は建築コスト計画・積算や工事監理を行う部署に所属し、グループ会社の保有する多数施設の改修工事を実施する業務に従事した。その後、主に建物の維持保全を担う現在の部署に異動し、点検・保守の統括管理業務やお客様への保全提案業務を担当している。
 このように「建物の構築から維持までファシリティに幅広く関わる」という私の入社理由に即した経歴を歩んでおり、ファシリティマネジャーとしての基本的な知識をまずは取得したいと思っていたため、認定ファシリティマネジャー資格も入社時から試験を受け無事取得できた。
維持保全の立場でのファシリティマネジメント
 現在の維持保全の部署において、管理するお客様の保有施設はバブル期に建設されたオフィス用途の建物が多く、日常的な点検・保守を施しながら建物利用者の事業継続性の確保と建物の長寿命化に努め、経年による劣化に対しては予防保全的観点から中長期修繕計画を立案しオーナー様へ提案することでライフサイクルコストの低減に寄与している。
 以前の部署では主に建物躯体の改修工事を行う業務に従事していたが、現在の部署では建物設備管理を主に担っている。これまで触れることの少なかった建物設備知識が必要とされる場面が多く、刻々と変わる建物設備状況にキャッチアップできるように、実際に現場へ点検同行などしながら日々研鑽している最中である。
 また、中長期修繕計画の立案においては、建物設備管理での日常的な点検・保守結果やトラブル・故障履歴をもとに設備情報を統括し、プロパティマネジャーと予算を含めた協議を実施しながら、5 年ないし10 年の予防保全的な修繕計画をオーナー様へ提案する。資格試験で学んだ計画的保全の考え方や保全項目の重要度分類の考え方は、計画立案のプロセスの中で活かせていると感じている。
ハード面にとどまらないファシリティマネジャーの仕事
 上記のような維持保全(当社では建物維持管理と名付けている)業務をマネジメントしていくうえで、年々深刻化している業務従事者の高齢化・人材不足の課題にも対応していかなければならない。また、若手の人材育成制度の企画立案、ツールを用いた維持管理のDX化、当社が推進しているIWMS(Integrated WorkplaceManagement System)による「エリア巡回型保守サービス」の導入促進など、さまざまな観点から施策を打ち出しながら課題に対応している。こういったヒューマンリソースの課題への対応や、ICT を活用して経営課題を解決する業務も、経営価値向上を支援し知識創造と生産性向上を支援するFM の担う役割の一つであると捉えながら日々従事している。
今後の展望
 以前、ファシリティマネジャー試験合格者の声として寄稿させていただいた際に、「企業のFM 戦略・計画の立案や中長期計画の実行に携わることのできるファシリティマネジャーをめざしたい」と記載したように、目標とする道を着実に進んでいると実感している。価値観の多様化でより正解のない時代へと進んでいる中で、FM の領域はさらに拡大していくことは想像に難くないが、その変化にファシリティマネジャーも臨機応変に対応できるようにしなくてはいけないと考えている。個人的にも、設計・工事監理や維持管理にとどまらず不動産やワークプレイス構築、ひいては経営、財務、人事、ICT と多様な分野を経験し、変化の激しい社会の中でも幅広い知見をもって持続可能社会や循環型社会の実現に寄与できるファシリティマネジャーとして活躍していきたい。