ファシリティマネジメントの領域はとても広く、その対象も拡大しており、認定ファシリティマネジャーが所属している企業や団体の業種や事業、担当業務も多岐にわたります。ファシリティマネジメントを担当業務としておられる皆様に、お仕事やFMへの思いを語っていただきました。
ファシリティマネジメントの仕事とは何か?様々な視点からのFMの多様性や奥深さを感じていただき、皆さんの業務に是非ご活用ください。
※ 以下の内容は、JFMA機関誌「JFMAジャーナル NO.216 2024 AUTUMN」に掲載されている内容から引用しております。JFMAジャーナルは、JFMA会員の皆様に無料で配布しているほか、書籍ページ からもご購入できます。
![]() 篠ア 蓉子 株式会社パスコ |
公共マネジメントの仕事
はじめまして。株式会社パスコで公共施設マネジメント業務に従事している篠アと申します。 株式会社パスコは、地球上のあらゆる事象を捉え、AI(人工知能)やIoT、GIS(地理情報システム)、画像処理などを活用した「分析・解析技術」を加えた3 つの要素を融合することで、国土や環境の管理・保全、インフラの維持管理、災害その他のリスク管理や対策など、社会課題の解決に向けたサービスを提供しています。 このなかで私が所属しているファシリティマネジメント課では、北は北海道から南は沖縄までの地方自治体を主な顧客として、公共施設を総合的かつ統括的に管理・運営・活用を行う公共施設マネジメントに関連する業務支援を行っています。 私自身は、育児休暇をいただきつつ、10 年程携わってきました。(子育て中の同志の皆様、読んでくださっている方いらっしゃいますでしょうか。お互いがんばりましょうね!) 部門として対応している業務は顧客の課題の数だけ幅広くあるのですが、特にデータの整理・分析に興味があることもあり、弊社提供サービスである公共施設マネジメントシステムの運用・保守業務や、利用状況・コスト情報の分析・推計、GIS を用いた分析などの業務を主に対応させていただいています。お客様や市民の方々からみても客観的で分かりやすい成果をご提供すべく、日々頭を捻って試行錯誤を繰り返しています。 当たり前のことではありますが、業務に関わり始めた当初は、自身で対応できることの範囲が狭く、戸惑うことも多々ありましたが、少しずつ業務経験を積み、自治体のお困りごとに対して、どういった対応・解決方法が望ましいのか、お客様や課員の方々とのコミュニケーションを楽しみながら業務にあたることができるようになってきました。 認定ファシリティマネジャーの資格は、関連業務に従事する際に資格要件として指定されていることも多く、関連部門の社員は受験を推奨されていたこともあり、資格取得に至りました。当時は、今よりもまだまだ半人前だったこともあり、知らないことだらけで、改めてファシリティマネジメントの幅の広さを実感しました。試験を受験する際に網羅的に学んだことによって、私が関わる業務がファシリティマネジメントとしてどのような位置づけなのか俯瞰的に捉えることができ、さまざまな気づきを得ることができています。 資格を取得したことで、携わることのできる業務の幅も徐々に広がり、新しい技術・知識を吸収することの大切さを感じています。業務や育児の忙しさにかまけて忘れがちになってしまいますが、知識のアップデートを怠らないように、学びを深めながら、お客様に仕事を任せてよかったと思ってもらえるような技術者になれるように、引き続き日々精進していく所存です。 |
![]() 嶋村 浩樹 東京美装ホールディングス株式会社 |
たまたま取った資格が役立つときが来た
筆者が認定ファシリティマネジャーの資格を取得したきっかけは、実はあまり褒められたものではない。積極的に取得したわけではなく、大学の恩師がJFMAに関わっていたこともあり、恩師の顔を立てる程度の軽い気持ちで「とりあえず取っておこう」くらいのものだった。資格取得は2011 年であるが、当時は建築設計事務所の意匠担当(建築設計部)だったこともあり、ファシリティマネジャーの知識や資格は全くといって良いほど使ったことがなかった。ところが、事務所内で資格を持っているという理由で、公共施設プロポーザルのファシリティマネジメント資格所有者としてチームに参加するようになった。ちなみにその当時、事務所員は500 人前後だったが、認定ファシリティマネジャー資格者は5〜10人程度だったと記憶している。そのあたりから同種業務を経験していくうちに徐々に実績が増えると、自ずとスキルも増し経験値も上がってくる。社会全体がスクラップ&ビルドからストックマネジメントの時代に移るにつれて民間企業からのニーズも増え、次第に事務所内の各部署や支社からファシリティマネジメントに関する相談を受けることになっていった。 かくして筆者のファシリティマネジメントに関する知識やノウハウは、たまたま資格を取ったことから始まったものであるが、今ではこの偶然に感謝している。筆者がエンジニアとして提供する直接的な成果物は、建築の施設や設備に関わる管理と保全のノウハウであるが、同時にコンサルタントとして提供する間接的な効果としては、適切な維持管理と運営のその先にある「経営資源の最適化」ということになる。建物がハードとしての「器」であると同時に、経営資源という「資産」でもあることを強く意識するようになったのは、まさに認定ファシリティマネジャー資格を取得したおかげだと言って良い。 現在、筆者は維持管理会社に籍を置いているが、同業界は生き残りをかけた非常に厳しい時代を迎えている。少子高齢化による人手不足、人件費の高騰、地方都市の衰退など、今まで収益の柱としてきたビジネスモデルが崩壊し、そのエリアも確実に縮小してきている。さらに維持管理業に全く関係のない他業種からの新規参入も近い将来起こると考えている。人間に変わってロボットが清掃や警備をするようになれば、人材派遣のネットワークやノウハウがなくても、機器メーカーが直接業務を請負うこともできる。また、今まで処理不可能だった設備管理や清掃に関する膨大なデータをAI で分析できるようになれば、IT 系企業が業務を受注することもあるだろう。これからは維持管理に関する情報を管理/ 分析できる企業が主導権を握る時代がやがて来る。維持管理に関する情報を扱えるのは、何も専門知識を持った企業や人たちだけのものではなくなる。「維持管理業」自体は将来もなくならないだろう。しかし「維持管理を専業とする会社」はいずれ淘汰され、なくなる可能性が十分にある。 このような状況下でファシリティマネジャーは、その知識を使って企業が生き残るための計画を立ててはどうだろうか。たとえば、維持管理会社は過去業務の膨大な生データを持っている。パートさんやアルバイトさんの属性や勤務時間、シフトスケジュール、重大インシデントの発生状況、ケガや事故の起こりやすい場所や季節/ 時間など、いわゆる「お宝」情報を管理/分析できると大幅な業務改善が可能になる。さらには設備機器の更新/ 修繕周期と機能不全、故障リスクとの相関関係、そのデータとリンクした最適な保全計画、設備機器台帳(ハード)と財産台帳(アセット)の統合ができると、経営の効率化が可能になる、といった提案ができるはずである。そうなれば、維持管理業務におけるファシリティマネジャーの役割は、今後ますます重要になるのではないかと思っている。 |
![]() 橋 淳 東北電力株式会社 |
その最適解を求めて
ここに来るまでの道のり 私は電力会社の建築部門で自社保有の遊休施設利活用や社内のワークプレイス改善を担当しています。建築部門では発電所や社員が働く事業所、社宅などの設計・工事監理や維持保全を主な業務としていますが、弊社では建築社員がその専門知識を活かして、他部門と連携しながら遊休施設利活用やワークプレイス改善にも取り組んでいます。 実は私自身、現在の会社は3社目で2023 年に中途で入社しました。1社目は建設会社で建築の施工管理を6 年、2社目は鉄道会社で駅舎などの企画・設計・工事監理を11 年、そのほとんどが建物を“ つくる” 仕事でした。鉄道会社にいた頃、新しい駅ができて地域の皆さんに喜ばれる一方で、その周辺の商店街では日中なのにシャッターが閉まり、人の姿もないという光景を各所で目にしていました。これがきっかけとなり、使われなくなった建物を“ つかう” 仕事をしてみたいと、いつしか思うようになりました。 「地域課題の解決に向けた遊休施設の有効活用であなたの経験・スキルを活かしてみませんか?」。電気料金のポイントアプリを調べるつもりで開いた東北電力のHP で偶然キャリア採用の募集を見た瞬間、「これだ!」と思い転職することを決めたのでした。 認定ファシリティマネジャーの取得 転職することが決まり、会社から成果を求められる立場になったことで、いい意味でのプレッシャーが生まれました。入社を機にさらなるスキルアップを考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが、募集要項の歓迎する資格にあった「ファシリティマネジャー」の取得でした。資格を詳しく調べたところ、利活用をはじめ、ファシリティの機能を最大限引き出すための幅広い知識を得られることが分かり、その必要性を感じて取得することにしました。 ファシリティマネジメント(FM)の仕事 遊休施設利活用の対象は主に社宅や事業所の空きスペースになります。検討に進む前には” 活用しても社内の施設供給に支障はない(不足は生じない)” といった経営視点の判断が必要になります。これを実務に落とし込むと、まずは社内でスペース利用のニーズはないかを確認し、なければ地元の自治体や企業にお声がけをして幅広にニーズ調査を行い、活用策を検討していくことになります。これまでに私が担当した案件では、社内ニーズで事業所の空きスペースに近隣のグループ会社が移転し、スペースの狭隘や設備環境の改善につながった事例や、社宅アパートを地元企業の宿舎として活用し,地域課題の解決につながった事例などがあります。活用策の案出しは自由な発想が求められる一方で、それを実現するためには事業計画の策定、用途変更に伴う行政手続き、設計・工事、賃貸借契約、維持保全など現実を見て考えることがたくさんあります。いろいろと難しさはありますが,自分のこれまでの経験やFM・建築の知識を総力して利用者や現地の社員と一つひとつ形にしていくプロセスは楽しく,思い描いていた仕事がやれていると実感しています。 また、今年からは社内のワークプレイス改善も担当しています。弊社では、昨今の働き方の多様化、仕事を行うツールの変化、世の中の仕組みに応じた業務内容の変化などから、ワークプレイスのあり方を見直す事例が増えています。仕事の性質が異なる各部門からの要望(仕事のしやすさ)を基本コンセプトのレイアウトにどう落とし込んでいくか、試行錯誤しながらも「ここで働きたい」と思えるようなワークプレイスを利用者と一緒につくりあげることを目指して取り組んでいるところです。 最後に 遊休施設利活用・ワークプレイスとも、その正解は一つではありません。利用者と何度も会って話し、推進チームで意見を出し合い、そうやって関係者みんなで『最適解』を作っていくものだと思っています。私が今の道を選んだときのように、今度はFM を通じてみんなと「これだ!」と思える瞬間を共有しながら,ファシリティが持つ機能を最大限引き出していきたいと考えています。 |
![]() 竹林 佑記 株式会社いよぎんホールディングス |
本社建替えプロジェクトを機に資格を取得。
FMは、事業会社の担当者に必須の知識 私が勤務する「いよぎんホールディングス」は愛媛県松山市に本社を置く企業グループで、その傘下に、伊予銀行をはじめとするグループ11 社を有し、地域経済・産業の持続的な発展に貢献すべく事業展開しております。 弊社の本社建物は1952年の竣工後70年以上が経過し、老朽化しておりましたので、2022年8月に本社建替を決定し、以後、私は本社建替PT(プロジェクトチーム)として、各種プロジェクトの企画・推進を担っております。 認定FMの資格取得の理由ですが、現部署に着任するまでは営業店経験しかなく、建築の「け」の字も分からない素人でしたが、急遽、本社建替プロジェクト(PJ)に携わることになりました。今でも覚えていますが、設計・施工をご担当いただいている竹中工務店との会議に初めて出席した際に「ワークプレイス?エンジニアリングレポート?中性化診断?…全く意味が分からん…」と思ったことが、FMの勉強を始めた直接的な動機でした。当初はピュアにFM に関する知識取得が目的で、資格取得まで考えておりませんでしたが、PJを進める中でお会いした方の名刺に「認定ファシリティマネジャー」の記載があり、私自身も取得すれば、関係者の方との共通の話題ができるのでは?と思い、資格取得を目指した次第です。 FM資格・知識の仕事への活かし方について、職務柄「資格」は必須ではありませんので直接的には関係ないものの、建物や什器類などのハード面については社内の各人が一家言を持っておりますので種々さまざまなご意見を頂戴することが多く、そのような時に「世の中にはファシリティマネジメントという概念があり、私はその勉強をして資格も取っているのですが…」という枕詞を付けて説明いたしますと、存外にご理解・ご協力をいただけましたので、そういう意味では役に立ったかと思っております。 FMの「知識」に関しては、竹中工務店はじめ各直営事業者と協議する時だけでなく、社内向け資料作成や説明を行う際にも大いに役立ちました。当然、FMの知識は、社外の皆様の専門領域とは異なりますので、詳細についてはプロにお任せすることになりますが、建物をどういうコンセプトで建てるか、働きやすい環境をどうつくるか、どういうスケジュールでPJを進めるか等々、まさにFMの知識があることで関係者の皆様と「共通言語」で話をすることができたという意味では、事業会社の建築・管財等に携わる担当者としては必須の知識だと理解しております。 また、社内向けの話ですと、PJを進める中で、コロナ禍や物価上昇などの社会情勢が変わりますので、それに伴い、新本社に関する議論も変化しますが(リモートワーク普及による床面積不要論や予算対比でのコストダウン検討など)、その都度「われわれは新本社に何を求め、完成後には何を実現したいのか?」という目的を明確にすることができたのは、FMの体系的な知識があったからではないかと考えております。 弊社の本社建替PJは現在地で2棟建替えを行うため2022年〜2029年の長丁場となり、足元の進捗率としては20〜30%といった状況ですが、2025年春には1 棟目が完成しますので、今まで企画してきたことを実際に実現・定着させるフェーズに入ります。想定通りに実現できることもあれば、一方で、上手く定着できないものや想定外の事象も発生するだろうと覚悟はしておりますが、その都度、FMの学習を通じて得た知識を活用して、新本社の運用をチューニングしつつ、2棟目の設計・施工計画を関係者の皆様とともにさらに磨き上げ、従業員全員に満足して貰えるような新本社をつくり上げたいと考えております。 |